オーダースーツは体にジャストフィットするスーツが作れるだけではなく、細かい仕様まで自分の好みにカスタマイズして作れることが魅力です。ですがカスタマイズの自由度が高いが故に、「ボタンやポケットの種類はどんな基準で選べば良いのだろう?」「決めないといけない仕様が多すぎて難しい」などと迷ってしまいがちです。本記事は、オーダースーツを作るときの全体の流れや、仕様の選び方のガイドをまとめました。
オーダースーツの種類
オーダースーツと言っても、専用の型紙を起こして手縫いで仕上げるビスポークから、既存の型紙から体型に近い物を選び、微調整して作るパターンオーダーまで、作り方は様々です。その作り方によって手間暇や品質が変わってきますので、価格も数万円から数百万円まで、かなり幅が広いです。
ビスポーク
特徴:職人との密なコミュニケーションにより、完璧なオーダースーツを仕上げる。
製作期間:2〜3ヶ月
価格目安:30万円〜150万円
フルオーダー
特徴:専用の型紙を起こし、細部の仕様まで選択できる。職人が手縫いすることが多い。
製作期間:2〜3ヶ月
価格目安:20万円〜50万円
イージーオーダー
特徴:既存の型紙をベースに、肩幅や袖丈、ウエストなどの体型補正を加える作り方。
製作期間:2〜4週間
価格目安:5万円〜15万円
パターンオーダー
特徴:店舗が用意した既存の型紙を選び、袖丈、裾丈などの微調整を行う作り方。
製作期間:1〜2週間
価格目安:3万円〜10万円
パターンオーダーやイージーオーダーは、既製品よりも体型にフィットしたスーツを安価に仕立てることができますが、寸法の調整範囲や仕様の選択範囲が限定的です。フルオーダーやビスポークなどになると、仮縫い(フィッティング)を行いながら完璧に体型に合わせることが可能で、細かい仕様も選択肢の幅が広くなります。テーラーさんによって、フルオーダーとイージーオーダーの中間的な仕立て方を用意しているところもありますので、ご自身の目的に応じた仕立てを選んでください。
オーダースーツ作成の流れについて
ここでは、フルオーダーを例にオーダースーツ作成の流れを紹介します。イージーオーダーなどでは型紙を起こす工程や仮縫いがなかったりしますが、基本的な流れは下記を押さえておけば良いでしょう。
Day1: カウンセリング、採寸、仕様決め
・使用用途や、イタリアor英国などの好みのスタイルなどを確認する。
・肩幅や袖丈、ウエスト周りなど、体の各部寸法をメジャーで測定する。
・バンチブックや生地のロールを見ながら、生地を選ぶ。
・ラペルやポケット、ボタンなどの、ディテールの仕様を決める。

これらの工程をもとに、テーラーさんは型紙を起こし、生地を裁断し、仮糸で縫い付けて仮縫いの準備を行います。仮縫いまでは5〜6週間程度かかります。
Day2: 仮縫い
・仮縫いスーツを着て、フィッティングを確認する。
・さらに必要な補正箇所を決める。
必要に応じて仮縫いは数回行われ、フィッティングを追い込んでいきます。寸法が確定したら、本縫いが行われて完成です。

Day3: 納品
・完成したスーツを試着し、問題がないか確認する。
・問題がなければ納品される。
採寸時・仮縫い時に気を付けること
- 実際にスーツを着るときのシャツや、作るスーツに近い仕様のトラウザーズを着用する。分厚い生地だと採寸が正確に行われなくなるリスクがあります。
- 実際にスーツに合わせる靴を着用する。トラウザーズの丈の確認の精度が上がります。
- 太りすぎているときや、痩せすぎているときに採寸しない。
- 採寸やフィッティングの確認時は、リラックスした自然な姿勢で確認する。
生地の選び方
色・柄の選び方
色・柄は様々な種類があり、選択肢が豊富です。基本的には好きな色・柄の生地を選べば良いですが、ビジネススーツを作る場合は下記記事も参考にしながら選んでください。

生地の選択時は、可能であれば太陽光の下で見え方を確認することをお勧めします。室内光と太陽光では、色味や柄の見え方が変わりますので、できれば両方の環境で確認しておきましょう。
また、バンチブックのような小さい面積の生地サンプルで見るのと、実際にスーツに仕立てて大きな面積で見るのとでは、柄の印象が変わって見えます。店頭に生地のロールが置いてある場合は、肩に掛けさせてもらって確認することをお勧めします。

素材について

素材には自然繊維から合成繊維まで、様々なものが使われています。それぞれの特徴を押さえ、自身の用途に合った素材を選びましょう。また、単一素材だけでなく、2者混、3者混など複数の素材を組み合わせたものがあります。
ウール
特徴:しなやかで艶があり、通気性・保湿性に優れる。
用途:フォーマルからビジネスまで、季節を問わず使える。
コットン
特徴:柔らかい質感で、通気性が良い。シワになりやすい。
用途:カジュアルなスーツやジャケット向け。
リネン
特徴:軽くて涼しい素材。吸湿性が高く、シワになりやすい。
用途:夏のリゾートスタイルやカジュアルなスーツ、ジャケット向け。
モヘア
特徴:アンゴラヤギの毛を使用した高級素材。光沢があり耐久性が高い。
用途:夏用スーツ向け。
カシミア
特徴:非常に柔らかい高級素材。肌触りが滑らかで光沢がある。
用途:高級感を重視した冬用スーツやジャケット、コート向け。
ポリエステル
特徴:合成繊維でシワになりにくく、耐久性が高い。
用途:日常使いのスーツ
スーパー表記について

スーツの生地には、「Super 110’s」のように、スーパー表記がされているものがあります。スーパー表記とは繊維の細さを表したもので、数字が大きくなるほど繊維は細くなります。高い数値の生地は柔らかく見た目もエレガントになり、生地の価格も高価格になっていきます。ですが繊維が細くなるほど耐久性も落ちていくため、注意が必要です。ご自身の使用シーンや使用頻度なども考慮して選択してください。
Super 100’s 〜 120’s
・比較的繊維が太めで、シワになりにくく耐久性も高い。
・日常使いのスーツに適している。
Super 130’s 〜 150’s
・繊維が細い分、デリケートで耐久性はやや低め。
・高級感や特別感を重視するスーツに適している。
Super 160’s以上
・光沢感が美しく、極めて繊細で贅沢な仕上がり。耐久性は低く、取り扱いに注意が必要。
・特別なシーンでのスーツ向け。
目付けと季節感について
スーツの生地には「250g/m」のように、目付けが表示されています。目付けとは、生地の重量を表す指標で、通常は1平方メートルあたりの重さで表されます。目付けはスーツの質感、保温性、耐久性、季節感などに大きな影響を与えるため、生地選びの重要なポイントの一つです。
ライトウェイト(約200~250g/m²)
特徴:薄手で軽量、通気性に優れている。
用途:春夏用スーツや、暑い地域での着用に適している。
ミディアムウェイト(約260~300g/m²)
特徴:標準的な目付けで、バランスの取れた保温性と通気性を持つ。
用途:オールシーズン用のスーツに適している。
ヘビーウェイト(約310g/m²以上)
特徴:厚手で重量感があり、高い保温性。耐久性も高い。
用途:秋冬用スーツや、寒冷地での着用に適している。
裏地の選び方


裏地の素材は、安価な物ではポリエステルが使われますが、キュプラを選択することをお勧めします。キュプラはシルクに似た滑らかな手触りで、高級感があります。また、静電気が生じにくく、通気性も高いため機能的にも優れています。多少の追加料金は生じるかもしれませんが、キュプラを選択しておけば間違いないでしょう。
また裏地にも、様々な色、柄の選択肢があります。無難に仕上げたい場合は、表地と同色系にしておくか、グレーなどのモノトーンにしておくと良いでしょう。表地に柄が入っているときは、裏地にも柄を入れてしまうとうるさくなってしまいますので、無地を選択しておくことをお勧めします。逆に表地が無地の場合は、裏地はどんな柄でも大丈夫ですので、好みのものを選択しましょう。
ジャケットの仕様の決め方
シングルブレスト or ダブルブレスト


まずはシングルブレストか、ダブルブレストかを決めましょう。本来はダブルブレストの方がよりフォーマルとされてきましたが、現代においてはより簡略化されたシングルブレストの方が一般的となっています。ビジネスシーンで無難に着こなしたい場合にはシングルブレストがお勧めです。日本においても圧倒的にシングルブレストが多いため、逆に差別化したり個性を出したいときはダブルブレストがお勧めです。
シングルブレスト | ダブルブレスト | |
---|---|---|
ボタンの配置 | 1列 | 2列 |
ボタンの数 | 1B〜3B | 4B, 6B |
保温性 | 普通 | 高い |
見た目の印象 | シンプル、スタイリッシュ | 重厚感、クラシック、エレガント |
ラペルの形状とサイズ


ラペルには大きく分けて、ノッチドラペルとピークドラペルがあります(タキシードなどではショールカラーもあります)。基本的には、シングルブレストのジャケットにはノッチドラペル、ダブルブレストのジャケットにはピークドラペルが組み合わせられます。シングルブレストにピークドラペルを組み合わせるケースはありますが、ダブルブレストにノッチドラペルを組み合わせるケースは見たことが無いので、ダブルブレストの場合は迷わずピークドラペルを選択することをお勧めします。
より汎用性が高く、ビジネスなどどんなシーンでも使えるのはノッチドラペルです。シンプルで控えめな印象を与えることができますので、ビジネススーツや、汎用性を持たせたいジャケットにお勧めです。ピークドラペルはよりクラシックでフォーマルな形状のため、力強く、エレガントな印象を与えることができます。カジュアルなスーツや、エレガントに見せたいジャケットにお勧めです。
腰ポケットの種類



腰ポケットには、大きくフラップポケット、スラントポケット、チェンジポケット、パッチポケットがあります。パッチポケットはカジュアルになるため、ジャケパン用のジャケットにはお勧めですが、スーツには適していませんので注意が必要です。フラップポケット、スラントポケット、チェンジポケットは、いずれもビジネススーツで用いることが可能ですので、好みで選ぶと良いと思います。
フラップポケット | スラントポケット | チェンジポケット | パッチポケット | |
---|---|---|---|---|
特徴 | ポケット口にフラップが付いている、最もオーソドックスなデザイン。 | フラップポケットが斜めに取り付けられたデザイン。 | 右フラップポケットの上に、小さなポケットが付いたデザイン。 | ポケットが外側に縫い付けられたデザイン。 |
印象 | 標準的で、フォーマルにもカジュアルにも適している。 | スタイリッシュなデザインで、体型がスマートに見える。 | クラシックで重厚感のあるイメージ。 | カジュアルでリラックスしたイメージ。 |
選び方 | 迷ったときにこれを選べば間違い無い。 | シャープでスリムな印象を与えたいとき。 | ブリティッシュスタイルにしたいときや、重厚感を求めるとき。 | カジュアルな場面や、ジャケパンに使うジャケットに。 |
胸ポケット


胸ポケットには、大きく分けてボックスポケットとバルカポケットの二種類があります。ボックスポケットはポケット口が直線的で水平になっている、最もスタンダードな胸ポケットです。堅実でフォーマルな印象のため、ビジネススーツにお勧めです。バルカポケットはポケット口が船のように曲線を描くデザインです。エレガントで個性的な印象になり、イタリアンテイストのスーツを好む方に最適です。どちらにするかは好みで選んでしまって良い箇所です。
ベント


ベントとはジャケット背面の切れ込みのことで、大きく分けてセンターベントとサイドベンツの二種類があります。どちらがフォーマルということもありませんので、好みで選べば良いでしょう。
センターベント | サイドベンツ | |
---|---|---|
切れ込み | 背面中央に一箇所 | 背面両サイドに二箇所 |
印象 | シンプルで馴染みのある印象 | クラシカルでエレガントな印象 |
メリット | ・動きやすさがあり、座ったり歩いたりする際に快適。 ・幅広い体型にフィットしやすい。 | ・動きやすさが高く、手をポケットに入れる際にジャケットが持ち上がらない。 ・体型を美しく見せ、ヒップラインが目立たなくなる。 |
デメリット | 腰回りやヒップ部分が強調されることがある | 特になし |
ボタンの数と素材
ボタンの数


シングルブレストの場合は2Bが一般的ですが、3Bや1Bもあります。3Bには上から二つを留めるものと、真ん中だけ留める段返り3Bとがありますが、現代では団返り3Bが一般的です。2Bと比べて、ラペルのロールをより立体的に美しく見せることができると言われています。


ダブルの場合は、6Bと4Bが一般的です。よりフォーマルなのは6Bで、4Bは少しカジュアルになります。
ボタンの素材
ボタンの素材には、水牛や貝などの自然素材を用いたものや、プラスチックや金属などの素材を用いたものなど様々な種類があります。高級感を出したいときには水牛やナットボタン、リゾート感を出したいときには貝ボタン、オーソドックスなブレザーにはメタルボタン、気に入ったデザインで個性を出したいときにはプラスチックボタンなど、出したい雰囲気や使用シーンなども考慮しながら気に入ったものを選びましょう。

水牛(Horn)
特徴: 水牛の角から作られた天然素材で、一つ一つ模様や色味が違う。
メリット: 高級感があり、手触りも良い。
デメリット: 水や熱に弱い。

ナット(Corozo / Vegetable Ivory)
特徴: 椰子の種を使った自然素材。マットな質感とナチュラルな風合いが魅力。
メリット: 環境に優しいエコ素材。染色が可能でカラーバリエーションも豊富。
デメリット: 水に弱い。

貝(Shell)
特徴: 貝殻を使用したボタン。独特の光沢と滑らかな質感が特徴。
メリット: 見た目が美しく、高級感がある。
デメリット: 割れやすく、取り扱いに注意が必要。

革(Leather)
特徴: 革を加工して作られたボタン。柔らかな質感とユニークなデザインが特徴。
メリット: カジュアルでヴィンテージ感のある印象を与える。
デメリット: 経年劣化しやすく、手入れが必要。

プラスチック(Plastic)
特徴: 軽量で手頃な価格。耐久性があり、色やデザインのバリエーションが豊富。
メリット: 実用的で汎用性が高い。
デメリット: 高級感に欠ける。

メタル(Metal)
特徴: 真鍮やステンレスなどの金属製ボタン。重厚感があり、装飾性が高い。
メリット: 耐久性が高く、独特の存在感を演出。
デメリット: スーツ全体が重くなる場合がある。
袖口の仕上げ


袖口の仕上げには、実際にボタンが開け閉めできる本切羽と、ボタンが開け閉めできない開き見せがあります。実使用で袖口のボタンを外して袖をまくるなんてシーンはほとんど無いと思いますので、好みで選べば良い箇所です。本切羽はオプション料金がかかることが多いと思いますので、こだわりがある方以外は開き見せで良いと思います。


また、ボタンの一つ一つが重ならないように取り付けられたノンキッシングボタンと、少しずつ重ねて取り付けられたキッシングボタンがあります。こちらも好みで選べば良いでしょう。
ウエストコートの仕様(スリーピーススーツの場合)
スリーピーススーツを選択した場合は、ウエストコートの仕様も決める必要があります。生地やボタンなどはジャケットと同じになりますので気にする必要はありません。4種類の形状(シングルかダブルか、襟付きか襟なしか)から選択することが一番大きな選択になります。
4つの種類


シングル/襟なし | シングル/襟付き | ダブル/襟なし | ダブル/襟付き | |
---|---|---|---|---|
与える印象 | シンプルで控えめ | 洗練されている | クラシックでシンプル | エレガントでフォーマル |
オススメのシーン | ビジネス | ビジネスやセミフォーマルなシーン | カジュアルまたは控えめなフォーマルシーン | 結婚式やパーティーなど |
選び方 | どんなシーンにも合わせやすい、汎用性を求めるときに | 上品で洗練されている印象を出したいときに | 個性を表現したいときに | エレガントで重厚な印象を出したいときに |
裏地


ジャケットの裏地はウエストコートの背面にも使われるため、スリーピーススーツの場合はジャケットを脱いだときのことも考慮して裏地を選択する必要があります。無難にしたいときは同色系の無地の裏地を選んでおけば失敗しないでしょう。裏地の色や柄で遊んで個性を出せるのも、オーダースーツの醍醐味です。表地に柄の入った生地を選んでいるときは、裏地の柄との相性も十分考慮して選択してください。
トラウザーズの仕様
プリーツの数


トラウザーズのプリーツの数によって、ノープリーツ、ワンプリーツ、ツープリーツの3種類があります。ノープリーツは細身ですっきりとした見た目になり、ワンプリーツはクラシカルな印象になり、腰回りにも少しゆとりができます。ツープリーツではさらに腰回りにゆとりができ、シルエットもやや太めとなります。細身に見せたいならノープリーツ、クラシカルな雰囲気に見せたいならプリーツ有りの仕様にすると良いでしょう。
裾口の仕上げ(シングル or ダブル)


裾口を折り返さないシングルの仕立てと、裾口を数cm折り返したダブルの仕上げがあります。シングルはすっきりとした足元を演出でき、ダブルは足元にボリューム感を持たせることができます。本来はシングルの方がよりフォーマルで、ダブルは少しカジュアルな仕様ですが、現代ではあまり気にされず、ビジネスシーンでもダブルを用いることができます。シングルかダブルかは、見た目の好みで選ぶと良いでしょう。ダブルの折り返しは身長にもよりますが、4cm程度を基準にすると美しいです。
ベルトループ or サイドアジャスター


ベルト周りの仕様も選ぶことができます。通常は腰ベルトを留めるためのベルトループが付いた仕様が一般的ですが、ベルトループを無くしてサイドアジャスターを付けた仕様のものもあります。サイドアジャスター仕様は腰ベルトを使わない前提の仕様で、サスペンダーを用いてずり落ちないようにします。サイドアジャスター仕様は、スリーピーススーツなどでベルトを見せたくない場合などに最適です。
まとめ
本記事では、比較的細かいディテールに至るまで、オーダースーツ作成時に決めなければいけない仕様について解説しました。肩パットの厚みや一枚仕立てなど、さらに細かい仕様については言及していない箇所もありますが、どのテイラーさんでも適用できる汎用的な内容は網羅できているかと思います。オーダースーツは、自身で意思を持って仕様を決めなければならない箇所が多いです。後悔ない仕様が選べる一助になれば幸いです。